食育について


食育について

塩田啓仁(しおた けいじん)
大阪信愛女学院 学校医

子どもたちの食事の現状

今の子どもたちの食事の現状は、好きなものを好きな時に好きなだけ食べるという傾向にあり、いわゆる偏食が激しくなっています。偏食や少食の子どもにやせ、内向的・消極的性質、骨折の子どもが多く見られます。また、朝ごはんを食べていない子どもも多く、朝食を作らない母親が最近増えているように見受けられます。その理由として、朝時間がないからとか、朝食を食べると太るから朝食を抜き、子どもの食事も作らないことが多いようです。朝食を欠食すると、間食や夜食の増加につながり、その結果インスタント食品、スナック菓子類や嗜好飲料等の利用が増加します。過食と少食など、最近は食事を摂ることの自己調節の過程と生理的要求の不調和によるムラ食いが増加しています。また、今の子どもたちは堅いものは美味しくないという思いから、軟らかいものを好んで食べる傾向にあり、噛むことをしなくなったために、あごの発達が悪く、顔が尖っている子どもが多く見られるようになりました。子どもたちの食行動や食習慣がストレス、栄養のアンバランス、摂食障害など歪んだ状態になると、いわゆる生活習慣病を引き起こします。子どもたちの食生活が好ましい状態にあれば、休養、栄養、運動のバランスも取れ心身ともに健康になることができます。

塩分の摂りすぎ

現代人は塩分を摂りすぎています。今は塩分を1日9gまでが目標となっていますが、日本人の1日の塩分摂取量は平均13gと言われています。塩分を摂りすぎると喉が渇いて水分を要求します。塩分の摂りすぎにより心臓などの臓器に負担をかけ、心臓肥大や高血圧を引き起こします。食事で摂った塩分は血液に送られます。血液中の塩分濃度が高くなるとそれを下げるためにカリウムが必要になってきます。カリウムは野菜や果物に多く含まれており、これらを食べることによって、血液中の塩分濃度を下げることができます。野生の動物は木の実などを食べて塩分とカリウムのバランスを保っています。野菜にも塩分が含まれており、海に遠い地域の人達も野菜を食べて塩分を摂ることができます。ですから、血液中の塩分が不足することはありません。

食物線維が不足

現代人は食物線維の摂取が足りません。小学校の低学年の児童でも便秘をする子どもが増えてきています。食物線維は身体の外に余分な油分を便として排出する働きがあります。ですから、食物線維が不足すると便秘になりやすくなるのです。食物線維を多く含む食品はひじき(100g中54.9g)、乾燥わかめ(100g中38.0g)、小豆(100g中16.0g)です。ふつう食物線維を多く含んでいる食品と思われがちなごぼうは100g中3.6g、かぼちゃは100g中3.0g、さつまいもは100g中2.3g、さといもは100g中2.2gとなっており、野菜よりも海藻類のほうが食物線維を多く含んでいます。いもや野菜ももちろん良いですが子どもたちにもっと海藻類を食べさせて欲しいと思います。

高脂血症とは

生活習慣病のうちで最も多いのは高脂血症です。食物から摂取する脂肪は中性脂肪、LDLコレステロール(悪玉)、HDLコレステロール(善玉)に分けられます。中性脂肪は砂糖、果糖、アルコールに含まれる脂肪です。LDLコレステロールは動物性脂肪で、HDLコレステロールは植物性脂肪や魚の脂肪です。LDLコレステロールは血管の内壁にコレステロールが着きやすく、逆にHDLコレステロールは着きにくいコレステロールです。。中性脂肪やLDLコレステロールは動脈硬化を進める働きがあり、HDLコレステロールは動脈硬化を抑える働きがあります。脂肪を摂りすぎると感染防御機構である免疫能が低下します。きのこ類は免疫能を高める働きを持っていますから、食材の中には必ず取り入れて欲しいものです。コレステロールを多く含む食品の中で忘れがちなのが、鶏卵の黄身(100g中1300mg)です。鶏卵は他の食品に比べてとてもコレステロールが多く含まれている食品なので、毎日1個食べていても食べ過ぎになります。料理のしやすい食材ですので摂りすぎにならないよう注意が必要です。高脂血症にならないために次の10項目に気をつけましょう。

 @適正なエネルギー摂取を心がけます。
 A脂肪は、総エネルギー摂取量の20〜25%(上限)にします。
 B血液のコレステロールが多い人は、1日のコレステロールの総摂取量は、300mgまでとします。
 C動物性脂肪はできるだけひかえ、植物性脂肪にします。
 D肉はできるだけひかえ、脂身の部分は摂らないようにします。
 E魚の卵や動物の内臓は摂らないようにします。
 F魚介類を積極的に食べます。
 G大豆製品をもっと多く活用します。
 H食物線維の多い食品(おから、ひじき、野菜類、根菜類など)を組み合わせ多く摂るようにします。
 I副菜に野菜類、根菜類、きのこ類、海藻類を十分に使います。

現代病、骨粗鬆症

硬い骨の中身が抜けて骨がスカスカになり、骨折しやすくなる病気です。更年期以降に急に増加するので、若いときからの予防(貯骨)が大事です。今の子どもたちはテレビゲームやパソコンで長時間悪い姿勢をしていることが多くあります。姿勢が悪いと背骨が曲がり、心臓や肺を圧迫したり、女性では子宮を圧迫して内臓に負担をかけます。また、背骨が曲がると側弯症になることもあります。いつも背筋を伸ばして凛とした姿勢を心がけましょう。骨粗鬆症の原因としてカルシウム不足があります。お菓子やインスタント食品の中にはカルシウムの吸収を邪魔するものが入っているので、それらを摂っているとカルシウムは体に吸収されにくくなってしまいます。カルシウムの吸収を阻害する物質をリン酸塩といい、リンが体内のカルシウムと結びついてリン酸カルシウムとなって体の外へ出ていってしまいます。そして血液中のカルシウムが不足すると不整脈や心臓の病気になります。お菓子類の中ではチョコレートにリン酸塩がとても多く含まれていますので、美味しいからといって食べ過ぎないように注意が必要です。血液中のカルシウムが少なくなると、それを補うために骨のカルシウムが血液中に出ていき、骨のカルシウムがどんどんなくなります。その結果、骨がもろくなり骨折しやすい骨になってしまうのです。また、ビタミンCやビタミンEが入っている食品は必ずしも安全とはいえません。ビタミンCやビタミンEは油が使ってある食品には必ず含まれており、食品の酸化を防止するために入っているので体のためではないのです。コンビニなどで売られているパンなどは、作ってから届けられるまでに時間がかかるので、防腐剤や添加物が入っています。また、お弁当やおにぎりのごはんにも添加物が入っていて、時間が経ってもごはんが固くならないようになっています。パンやお弁当を買うときは食品成分表を見てください。添加物は人体にどのような害があるのか今のところわかりません。できるだけ天然の素材を添加物の入っていない状態で摂るように心がけましょう。

今の若い人達はカルシウムが入っている食品をあまり摂らず、リン酸塩の入っている食品を多く摂っている傾向があります。日常生活で骨粗鬆症を予防する7つの方法を紹介します。
 @1日に600mg以上のカルシウムを摂る。
 Aカルシウムを多く含む食品をまんべんなく、継続して摂る。
 Bカルシウムの吸収を阻害する食品(インスタント食品、加工食品、コーヒー、緑茶、大量のアルコール、タバコなど)に注意する。
 CビタミンD(カルシウムの吸収を助けます)を含む食品を摂る。
 D適度の運動をする。
 Eストレスをうまく解消する。
 F行き過ぎたダイエットをしない。

カルシウムを多く含む食材としてすぐに思い浮かべるのは牛乳でしょうが、牛乳は200g中にカルシウムは200mg含まれています。牛乳だけで1日の必要なカルシウム量を摂ろうとすれば1日500ml以上の牛乳を飲まなければならないのです。それよりも少ない量でカルシウムが大量に含まれているのが乾燥ひじきや乾燥わかめです。ひじきは10g中に140mgの、またわかめには5g中に50mgのカルシウムが含有されています。ひじきやわかめでカルシウムを日常的に摂るのが良い方法と思います。

生活習慣病の予防

生活習慣病の要因として、現代のライフスタイルがかなり影響していると考えられます。ライフスタイルが良くないと体を構成している細胞の中の小核が作られる頻度が高くなり、細胞のDNAに異常が現れます。DNAに傷がつくのです。そのDNAを持った状態の子どもが生まれると、子どもに影響が出ます。弱い臓器がおかされて癌などの病気になるのです。ですから、自分のDNAを傷つけないようにすることが子どものDNAを守ることなのです。子どもを病気から守る第一歩は自身のライフスタイルを良くし、傷ついたDNAを子どもに伝えないようにすることなのです。ライフスタイルが悪くなると免疫力も低くなるという報告があります。生活習慣が悪いと免疫力が下がり、病気になりやすくなるのです。8つの生活習慣を挙げます。いくつ該当しているか見てみましょう。
 @毎日朝食を食べている。
 A1日平均7〜8時間は眠っている。
 B栄養摂取バランスを考えて食事をしている。
 Cタバコは吸わない。
 D運動や定期的なスポーツをしている。
 E毎日、そんなに多量のお酒は飲んでいない。日本酒2合以下、ビール大瓶2本以下。
 F労働時間は1日9時間以内にとどめている。
 G自覚的なストレスはそんなに多くない。

7〜8個該当していれば良好、5〜6個では中庸、0〜4個のひとは生活習慣が不良です。

キレる子どもにしない

現代の子どもたちがキレる一番の原因は砂糖の摂りすぎによる低血糖が原因だといわれています。高血糖じゃないかと思われる方も多いので説明しますと、砂糖を摂りすぎると急激に血糖値が上がり、その後また急激に下がります。血糖値が下がったときにまた甘いもの(砂糖)を食べたくなります。血糖値が下がっているときはイライラや不安、体温の低下などが見られ、このとき注意を受けるとキレやすくなるのです。コーラやお菓子を食事代わりにしている子どもは危険です。最近の研究ではお年寄りのアルツハイマー病は甘いものをたくさん食べるひとに多いといわれています。

食生活の改善

子どもたちの食卓の変化を考えてみましょう。30年前に比べて、家族全員で食事を摂っている家庭は少なくなり、一人で食事を摂るいわゆる個食(孤食)の子どもが増えています。少子化で一人っ子の家庭が増えていることも原因の一つと考えられます。食事は単に栄養補給だけではありません。共に食べる(共食)ことで楽しくいただくことも大切なことです。

世の中すべてが便利になっている現代において、社会構造そのものが日常のストレスとなっている今日、人間としての身体を正常に機能させ、心身共に健康で明日を迎えるためには、自らの食習慣を見直した上での食生活の改善が第一です。食事は生命を維持し、健康を保つためには欠かせないものですが、その食事によって病気にもなり、癒すこともできるのです。食事の多様化が進み、食材も豊富です。しかし、いいもの、いい食材選びの手がかりはまず、旬を知ることからです。旬のものを摂ることが一番自然で、身体にも良いことなのです。安全で味が良く、鮮度がいいのは旬のものです。冬のほうれん草は夏のものに比べて3倍もビタミンCが多く、また暑い盛りのトマトやきゅうりも冬の2倍も多く含まれています。同じように見える食材でも旬のものは栄養が豊富です。

最近粗食という言葉をよく耳にします。粗食というといかにも粗末、粗雑と受け取られがちですが、素材にあまり手を加えず、素材を活かす意味では「素食」という言葉のほうが合っています。これからの現代人が健やかに生きるためには「素食」に基づいた食生活に改善することが絶対条件です。

いいものを、美味しく、楽しく、感謝して食べましょう

いくらいい食材であっても、調理の仕方ひとつで美味しいものも美味しく食べられません。自然の味を活かして、食材の持つ味を活かした料理を食べたいものです。美味しいものはとかく食べ過ぎになりがちです。腹七分くらいに抑えて残りは次の楽しみに取っておきましょう。また、主婦は家族の健康を預かっている大役を常に忘れずに、愛情を籠めて真心でもって食事を作ることが大切です。幼い頃に口にしたものが、その人の一生の食生活を左右する鍵になることは間違いないことのように思われます。幼いときに覚えた味がその後の食生活に大きく影響を及ぼすことになるのですから、母親の責任は重大だと思います。大自然がもたらす豊かな恵みに感謝の気持ちを持ちながら、毎日楽しく料理出来ることはこの上なく幸せなことだと思います。心を籠めて料理を作る人に感謝することも大切なことですが、また血となり肉となるため、日夜休むことなく働いている自分の身体にも感謝を忘れないようにしたいものです。食生活の基本は、「いいものを、美味しく、楽しく、感謝して食べる」ことです。

参考文献
道家禅話(世論時報社)
真味第5集(世論時報社)
おいしく治そう(文藝春秋)

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